レディの死(3) 火葬して、手紙を書いた

レディが死んだその日は、お通夜と称して、親戚が集まってくれた。「レディに」とtoastをあげて、巻き寿司を食べた。お正月くらいしか滅多に集まらない一同を、レディが集めてくれたと皆が口々に言った。

夜はまた、レディを抱いて眠った。レディの端正な顔、ビロードのような耳、痩せ細った体、柔らかなお腹、スムースなコート、左側だけのブリンドル、胸の三角形の傷、真っ黒なパッド、靴下をはいたような白い足先、ふさふさのしっぽ、すべてを焼き付けて、感触を覚えておこうと思った。それでも、すべての物事に永遠は存在しない。記憶はいつか薄れて無くしてしまうのだろう。

次の日の朝、死後硬直が解けたレディを抱きあげたら、全身の脱力感が、最後の1週間と同じだった。最後の1週間、レディは生きながらも既に死んでいたのだ。私の安楽死の判断は遅かったのだ。

家族は皆、仕事を休み、予約していた火葬場に向かった。

まだレディが生きている時、死んだらどうやって弔おうかと考えたことが何回もあった。たいていの動物霊園はお寺で、日本生まれでも仏教徒でもないレディを、そういう環境で火葬するのはどうしたものだろうと思った。火で燃やすことにも抵抗感を感じる。本当は、土葬が一番いいと思っていた。レディは土に帰り、そこからまた生命が生まれる。何年かして骨になったら、崩れのない綺麗な骨を集めることもできる。しかし東京住まいで広い土地のない身に土葬は難しい。

死後に解剖して病理検査を行う「剖検」についても考えた。本来なら獣医師として、剖検を依頼し、レディの病因を判定し、組織を今後の獣医療に役立ててもらうのが良かったのかもしれない。だけれど、あれだけ痛い思いをしたのだから、傷なく安らかに眠らせてあげたかった。もちろん、火葬してしまうのだから、どのみち身体は消滅するし、もう遺体はレディの形をしているだけで、レディはこの世にいないわけだけど。

レディは木の棺に入れられ、たくさんのお花で飾られた。お肉やドッグフード、おやつや写真を入れた。生前に使用していたタオルや、飼主の匂いがついた服などを入れてよいと言われたが、余計なものは入れないでおいた。でも、もしも別の世界に行ったとしても、誰かにわかってもらえるように、写真の裏側には、レディの名前と、飼主が私であることを、書いた。

人と全く同じように流れて行く葬儀、レディは日本人じゃないよなあと思いながらも、有り難くお坊さんのお経を聞いた。途中、木魚をカツカツ叩くことがあって、レディは鋭く大きな音が苦手だったので、嫌がって逃げたんじゃないかなと思った(実際に、魂を身体から追い出すために鳴らすのだそう)

 

その後、別棟にある火葬場に移動した。

「グッギーちゃん、いいこにしてるんだよ。Be goodにしてるんだよ、Be goodだよ、See you soonだよ」と、いつもの言葉で別れた。

扉は閉まり、点火して、火が燃える音を聞いた。

1時間半から2時間ほどかかるということで、霊園の待合室で待った。個室になっていて、お茶やお菓子がおいてあり、ゆっくりと気持ちを落ち着けることができるようになっていた。途中、スタッフの女性がやってきた。不思議なことに女性は、私がレディを引き取った頃、レディがいた保護施設のそばに住んでいた。日本人がほとんどいない場所なのに、同じ時期にあの場所にいた人と犬が、こうしてまた集まる。あらためて、この犬が私にひきあわせてくれる何かを感じずにはいられなかった。

帰り際に、霊園からお手紙を頂いた。

「汚れを知らず飼主を信じて生きた、その心と心のつながりは、まさに子供同様かけがえのない存在であり、日々どれほど心和まされたことでしょう。共に過ごした追憶の日々に感謝し、その魂の安らぎを......。」

と書いてあった。「汚れを知らず飼主を信じて生きた、その心と心のつながり」、犬を飼うって本当に、この通りだな、と思った。

そうしてレディは骨になり、銀色の箱に入って、また家に戻ってきた。

日々、ぽつぽつと、友人からお花などを頂き、その気持ちが嬉しかった。来るたびに、和菓子屋に行って、お香典返しを送った。のしをどうするかと聞かれた時、実は犬が死んで、という話をしたら、店員さんはずっとそれを覚えていてくれた。逐一店にやってくる私に、店員さんは「ずいぶんと有名なわんちゃんだったんですね」と、にっこりしてくれた。

レディを安楽死した後、看病の疲れから、今まで体験したことがなかっためまいが出たり、軽い突発性難聴になってしまい、また、気持ちの整理をつける為に、数日は自宅で静かに暮らした。そしてレディを知っている遠くの人たちに、1枚1枚手紙を書いた。1番はやはり、レディの出身地である、イギリスのEveshamにあるDogs Trustに向けた。

 

「最高の犬を、永遠の友達を、日本人でまだ学生だった私に託してくれてありがとう」と書いて送った。

レディの死(1) 立てない苦痛はどれほどのものだろう

レディの死(2) 犬も痛かったら、涙をながすんだ

レディの死(3) 火葬して、手紙を書いた

レディの死(4) 死んでからも教えてくれる犬は

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