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これは2014年に、犬を感じるブログメディア「dog actually」(現在は閉鎖)に掲載された、院長が書いた、自らの犬の終末についての記録、全4話です。一部加筆修正し再掲しています。未だにあんなに強い痛みを感じる動物をみたことがないです。今ならもっと上手く治療できたろうと思っています。

レディの死(1) 立てない苦痛はどれほどのものだろう

レディ・スペックは筆者が英国留学中に、英最大の動物保護団体Dogs Trustから引き取った雑種犬(正確にはラーチャー)である。共に日本に帰国し、筆者とレディは英国と異なる日本の犬社会に悪戦苦闘した。

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その年、レディは18年の生涯を終えた。安楽死であった。

ことの始まりは、「斜頸」といって、身体が傾いてしまう症状が出たことによる。歩こうとしても転んでしまうので、CTを撮影した。当時、働いていた病院に新しく入った80列のCTを駆使して、画像診断の先生が無麻酔CTを撮ってくれたのだ。特に異常はなく、特発性前庭障害だったようだ。お年寄りの犬によくある病気だ。

私は非常に軽い気持ちでCTを撮ろうと思っていた。しかしそこで偶然にも、CT画像から肺に腫瘤が見つかった。それも1個ではなく、2cm大のものがたくさんあった。

他の臓器に腫瘤病変は見当たらなかったので、寄生虫や真菌による「肺の中のしこり」も考えて、Dot-ELISAをしたり、抗真菌剤を投与してみたが、腫瘤は小さくならないどころか、どんどん増えてどんどん大きくなっていった。おそらく肺がんであろう。

たくさんある肺の腫瘤を全て手術で取ることはできない。放射線も難しい。年齢からいっても、負け戦を前提に強い抗がん剤を行うわけにもいかなかった。病気を受け入れよう、と思ったが、やはり気持ち的にもそういうわけにもいかず、あまり身体に負担をかけないメトロノミック化学療法を始めることにした。

肺腫瘤が偶然見つかった3月から、肺性肥大性骨関節症を併発して立てなくなるまでの3ヶ月間、レディはわりとお幸せに生きていた。肺がんといっても、よほどの広範囲で肺がやられない限り、呼吸に問題は出ないこともあり、しっかりと自分で息をして、雑音もなかった。薬によって斜頸は治り、また元のように歩けるようになったし、気分がよければラッタラッタと走り出した。

しかしある朝突然、レディの4本の足すべてが腫れていることに気がついた。丸太のように太くなっていた。ホルネル症候群も出ていた。それが肺性肥大性骨関節症の始まりだった。

肺性肥大性骨関節症は、主に胸腔内に存在する腫瘤によって、四肢の血流が増加し、骨膜反応を伴う四肢の骨増生が起きる。4本の手足がドラえもんのように腫れて、痛みを感じる。肺がんの合併症の一つとして知られており、なぜそのような病態になるのかは未だ不明である。

すぐにレディは右の前肢を挙げ始めた。痛くて手根が伸ばせなくなったのか、骨増生によって固まってしまったのか、周りの筋肉や腱が拘縮してしまったのかわからないが、右手を地面につくことができなくなり、3本足になった。右手が使えなくなると、自分で起き上がることができない。元々の麻痺で後肢がやや弱かったレディは、今までずいぶん右の前肢に頼って生きてきたのだろう。内科的な治療をしつつ、外科的にできることを考えているうちに、左の前肢がやられ始めた。もう、自分の足で立つことはできなくなった。最後の1ヶ月、レディは寝たきりになった。

あれほど散歩が好きで、歩くことが好きで、走ることが好きで、土や草の上が大好きな犬が、寝たきりになった。

レディの死(1) 立てない苦痛はどれほどのものだろう

レディの死(2) 犬も痛かったら、涙をながすんだ

レディの死(3) 火葬して、手紙を書いた

レディの死(4) 死んでからも教えてくれる犬は

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